8月9日 no.336
- 公開日
- 2022/08/09
- 更新日
- 2022/08/09
校長室より
今日は長崎県が「県民祈りの日」と定めた、原爆犠牲者の冥福を祈るとともに、恒久平和への誓いを新たにする日です
そして、長崎県では原子爆弾が炸裂された午前11時2分に全県民が一斉に1分間の黙祷を捧げることとしている日です
県民ではなくても、多くの人に祈ってほしいと長崎県では呼びかけています
民間人の住む街上空への原子爆弾の投下
この歴史上の事実は我が国で起こったことと頭では分かったつもりですが、どこかで信じられない想いがあります
だからこそ、8月6日と8月9日は、個人的に強く意識し続けている日のひとつです
午前10時40分の被爆者合唱が披露され、その後被爆77周年長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が開式となりました
午前11時2分、原子爆弾が炸裂した時刻に併せて黙祷
わたしも、世界が平和であること、原爆で亡くなった方々が安らかに眠っていただけるよう祈りました
十年以上前に長崎で被爆者の女性から直接伺った被爆体験談が忘れられません
それは、被爆後に皮膚が垂れ下がったままの弟を連れて、あてもなく水を求めて街中を歩いていた時、がれきで足が血だらけであることに気付き、横たわる死体から「ごめんなさい」と言って履き物をはぎ取り弟に履かせ、自分も履いたというお話しです
まだ幼かった女性がどのような気持ちでその行為を行ったのか、想像します
その後も死体の転がる、破壊し尽くされた長崎の街をどのような気持ちでさまよったのか、想像します
この話を我々にされることで、当時を思い出されることを想像します
人は想像することができます
そしてその想像は、よりよい未来の創造へとつなげられます
ただし、想像するには事実を知らなければなりません
今を生きるわたしができることは、過去の事実を知り、想像し、よりよい未来に向けて考えることです
そして、考えたことを為すことです
式典の中で、原子爆弾の熱線を浴び、水を求めながら亡くなった犠牲者を慰霊するために、祭壇に水をささげる儀式「献水」が行われました
ここでも、かつて伺った被爆体験談がよみがえりました
式典の中で、被爆者代表 宮田 隆 さんが述べられた「平和への誓い」を全文紹介します
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「平和への誓い」
まず初めに、ウクライナでの多くの犠牲者に心から追悼の意を表します。容赦ない無差別攻撃は、77年前の無実の長崎市民が体験した原爆投下と重なります。断じて許せません。
今年2月24日、ウクライナに鳴り響く空襲警報のサイレンは、あのピカドンの恐怖そのものでした。77年前の8月9日、長崎に投下された原子爆弾の爆風によって、爆心地から2・4キロの自宅にいた5歳の私の小さな体は、8畳間から玄関口まで吹き飛ばされ、母親の胸の中で目覚めました。今もあの時の母親の胸の鼓動が耳に残っています。
あの夜、山越えで我が家に逃げてきた看護婦さんは、髪は逆立ち、左目は飛び出し、「水をください」と言ったまま、私たち家族の目の前で絶命しました。爆心地の松山町へ救援に赴いた父は、黒焦げの焼死体となった叔父と叔母を発見し、その私の父も5年後に白血病で亡くなりました。
今、82歳の私は、10年前に発症したがんの悪化で苦悩の日々を過ごしています。多くの被爆者は、私以上の苦しみに耐えて生き抜いています。
本日ご列席の国会議員、県議会・市議会議員の皆様、被爆者と対面し、被爆者の心の痛みと被爆の実相を聞いて、世界に伝えてください。私は6月、ウィーンで開かれた核兵器禁止条約第1回締約国会議に参加し、会場や路上で「HIBAKUSHA」と書いたゼッケンを着用して訴えました。
“Please、visit Nagasaki. To see is to believe、no more Nagasaki、Stop Ukraine”
第二次世界大戦から77年後の今、ロシアの核兵器の使用を示唆する警告によって、世界は核戦争の危機に直面しています。日本の一部の国会議員の核共有論は、私たち被爆者が願う核の傘からの価値観の転換とは真逆です。核共有論は、「力には力」の旧来の核依存思考であり、断じて反対です。核は抑止にあらず。今こそ日本は、核の傘からの価値観を転換し、平和国家の構築に全力を挙げるべきです。
そのためには、日本は歴史に学び、北東アジア非核兵器地帯を宣言し、日本国憲法第9条を厳守してください。あの第二次世界大戦の英霊約300万人と長崎原爆犠牲者約20万人の願いを込めて、二度と戦争をしない国民の強い意志と、国家としての戦争放棄は、戦後、確かに国民の命を守ってきました。対話による平和外交こそ、新たな時代への挑戦です。特に、被爆地選出の岸田(文雄)首相の行動力に大いに期待します。
そして、日本政府は核兵器禁止条約に署名・批准してください。昨年発効した核兵器禁止条約は、被爆者と人類の宝です。この条約を守り、行動することは、唯一の被爆国である日本政府と国民一人ひとりの責務であると思います。締約国会議にオブザーバーとして参加した各国からも、この条約に対する熱烈な期待が発言され、私は勇気をもらいました。
私たち被爆者は、この77年間、悲しみも苦しみも乗り越えて、生きてまいりました。これからも私たちは、世界の市民社会と連携して、核兵器のない明るい希望ある未来を信じて、さらにたくましく生きていきます。核兵器禁止条約をバネに、新しい時代の始まりであることを自覚し、私たちは強い意志で、子、孫の時代に「核兵器のない世界実現への願い」を引き継いでいくことを誓います。
2022年(令和4年)8月9日
被爆者代表 宮田 隆
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わたしは想像し続けます
写真出典:NHK