「10月26日は柿の日」 10/26 460号
- 公開日
- 2023/10/26
- 更新日
- 2023/10/26
校長室
今日26日は、正岡子規が「柿食へば鐘が鳴るなり法隆寺」の名句を詠んだ日とされ、2005年に「柿の日」に制定されました。全国的に栽培面積は減っていますが、美肌効果もある栄養満点の柿の人気は世代を超えて根強いです。
古事記にも記述がある柿は「国果」とも呼ばれ、日本を代表する果実です。渋柿を吊るし、寒風に当てて作る干柿は、しみ出た糖分が白く粉上になると食べ頃です。渋柿から劇的に変化した上品な甘さは和菓子の甘みの基準になったとされています。子どもにとっては塩味の効いたかき餅とともに冬の貴重な副食でした。
私が小学生の頃、台所で祖母がいつも渋柿の皮を剝いていました。皮を剥いた2つの柿をタコ糸で結び、納屋の軒下に設置されている竿に吊るしました。皮剥き作業を興味深く眺めていた私を見付けた祖母は、「お前もやってみるかい?」と言ってもう一本の包丁を渡してくれました。初めは、「そんな分厚く皮をむいてどうするんだい?」や「すぐ皮が切れちゃうね!」と言われていましたが、見様見真似で作業を進めていくうちにどんどん上達していきました。薄く一続の皮剥きが出来るようになりました。
そこで当時子供心に2つの疑問を持ちました。「あんな渋かった柿が寒風に当てるとどうして甘くなるのか?」と「スーパーで販売している干柿の表面はあんなに綺麗に白粉が吹いているのか?」です。今はネット時代なので、2つ疑問をネットで調べてみました。
果実は、動物に種子散布をしてもらうために、動物に好んで食べてもらえるような果実を作ります。しかし、種子がまだ発芽能力を持たないような成長段階の果実を食べられてしまうと、植物にとってはただの損失です。そのため、熟すまでは、渋みのあるタンニンで果実が食べられるのを防ぎ、種子が発芽可能な状態に準備できたころに、動物に好まれるような味に変化させます。見た目も目立たない緑色からオレンジ色に変化させます。したがって、渋柿も、実がジュルジュルに柔らかくなる頃には、タンニンが不溶性に変わり渋さが抜けます。つまり、甘柿の品種は、種子散布のベストタイミングより早く、タンニンの効力をなくしてしまった、うっかり家系といえます。
ここまでのお話から、甘柿はタンニンが含まれていないのか、タンニンが不溶化されているのか、どちらだろうと思われた方もいるかも知れません。実は、甘柿には、タンニンが含まれるものの、それが不溶性であるために渋みがない不完全甘柿と、そもそもタンニンをほとんど含まない完全甘柿の2種類に分けられます。
完全甘柿は、柿の実の成熟過程でタンニンの蓄積が止まるため、タンニン濃度が低く維持されます。これらの品種は、タンニンを蓄積する能力を欠損したDNA変異体です。不完全甘柿は、タンニンの蓄積は起こりますが、種子でアセトアルデヒドが生産され、タンニンとくっつきます。アセトアルデヒドとくっついたタンニンは不溶化し、食べても渋みを感じなくなります。
また、渋柿も2つに分けられます。完全渋柿は、種子があってもなくてもジュルジュルに柔らかくなるまで渋いままの品種です。不完全渋柿は、種子から生産されるアセトアルデヒドによって、熟柿になる前から、種子の周りの果肉の渋が抜ける品種です。つまり、渋柿は、種があってもなくても、熟柿になる前にはタンニンがほとんど不溶化されない完全渋柿と、種の周りの果肉のみが不溶化される不完全渋柿の2つに分かれます。
柿をアルコールにつけておくと、柿の実の中でアルコールがアセトアルデヒドに変わり、そのアセトアルデヒドがタンニンとくっつき、不溶化します。また、炭酸ガスを充満させたところに柿を入れておくと、柿が酸素不足になり、アセトアルデヒドが生成され、タンニンが不溶化します。干し柿は、皮を剥くことによって、カキ表面に皮膜ができ、果実の細胞が呼吸できなくなることにより、アセトアルデヒドが生成され、タンニンが不溶化します。
つまり、人が行う柿の渋抜きも、タンニンを取り除いたり分解したりしているわけではなく、タンニンを不溶化して、渋みを感じないようにしています。渋みがなくなると、甘みが感じられるようになります。渋抜きの処理前と処理後で甘みは変わっていませんが、渋みを感じなくなったため、甘く感じるようになります。
また、2つ目の疑問の「干し柿の表面が白くなる」のは、寒さと空気が乾燥していることで柿の糖分が染み出て乾燥し、表面に白い粉として残るからだそうです。福光東太美地区は、干柿の産地です。冬に寒い乾燥した風が医王山から吹き下ろし絶妙に柿の糖分を染め出していると聞いたことがあります。
柿の木は、我が家にもあります。この機会に、日本を代表する果実「柿」の賞味の仕方を見直してみたいと思います。