中庭

学校日記 school diary

祈り no.577

公開日
2023/08/09
更新日
2023/08/10

校長室より

今日、8月9日は、長崎に原爆が投下されて78年の日
広島の平和式典では、こども代表が「平和の誓い」を述べます
長崎での「平和の誓い」は、被爆者代表が述べます
今回、その被爆者代表に選ばれたのは、熊本在住の工藤武子さんでした
工藤さんは被爆した家族を相次いで亡くした経験をおもちで、現在は紙芝居での語り部活動に取り組んでおられます
工藤さんは7歳の時、爆心地から3km地点にあった自宅で被爆
強烈な閃光を感じて家族で防空壕に逃げ込み、大きなけがはなかったそうです
しかし、被爆の数年後から、爆心地近くで親族の遺体を埋葬した父親をはじめ、家族が次々と亡くなり、3年前には自身も肺がんであることが分かったそうです
現在は熊本県原爆被害者団体協議会の理事として、熊本の被爆2世と共に、爆心地に向かう救援列車をテーマにした紙芝居を作り、学校や公民館での読み聞かせを続けておられます

2017年に始まった平和への誓いの代表者公募に、今年は長崎県内外の7人から応募があり、全会一致で工藤さんに決まっています
その選定理由のひとつについて「紙芝居による平和学習など若い世代へのアプローチも豊富で、若者と共同で核兵器廃絶をつないでいく発想を持っている」と選定委員会の代表は説明しています
長崎県外在住者が選ばれるのは18年以来2人目
被爆者の高齢化が進み、リアルな体験を伝えられる方は減っています
映像資料や音声資料ではなく、直接お会いして体験談を聴くことができる機会は貴重で、そろそろそのこと自身が難しい状況になってきました

修学旅行の引率で、広島でも長崎でも被爆者のお話を直接聴くことができたわたしは、自分に何ができるのかを毎年、8月6日と8月9日に問い返します

何事においても「知る」ことからすべては始まると思っています


広島と長崎
日本人として、工藤さんの言葉は心を揺さぶります

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全文
78年前の8月9日、7才の私は爆心地から約3キロの片淵町の自宅で母や姉、弟2人の5人で食卓を囲んでいました
突然、強烈な閃光が走り、皆一斉に庭先の防空壕に駆け込んだ次の瞬間、地響きのような音がして私は母にしがみつきました
しばらくして壕を出てみると、縁側のガラス戸は跡形もなく壊れ、畳は跳ね上がり、食卓はひっくり返っていました

その後、勤務先の造船所から帰宅した父は、爆心地に近い城山町の叔父の家に行き、二人の遺体を探し出し、焼け跡で荼毘に付しました
書斎の瓦礫の下にあった叔父の遺体も台所でみつかった叔母の遺体も無残に焼けていたそうです

原爆投下直後、私たち家族は無事でしたが、被爆から10年余り経ち、次第に体調を崩していった父は肝臓がんと診断され、3か月程の闘病の末、亡くなりました
臨終の時、父の顔に酸素マスクを当てていた私は、「神様、私の家族をお守りください」という最期の言葉を聞き、涙が止まりませんでした
その後、母と姉、弟、そして被爆時、母の胎内にいた妹までもが、相次いでがんで亡くなりました
私自身も3年前、肺がんの手術を受けました
たった一発の原爆で、長崎ではおよそ7万4千人、広島では14万人が亡くなり、生き残った人々の多くも、今なお、様々な後遺症に苦しんでいます

世界には、長崎や広島で使われた原爆の威力を大きく上回る核弾頭が約1万2千5百発存在し、ロシアのウクライナ侵略による緊迫した国際情勢の中、この美しい地球は、核兵器によって破壊され汚染される危機にさらされています
核戦争を起こさないために、唯一の戦争被爆国である日本は、今こそ広く世界に核兵器の非人道性を伝え、武力に拠らない平和創造の道筋を指し示し、地球と人類の未来を守るには、核兵器廃絶しかないと強く訴えるべきです

私は、今から15年前の2008年の秋から4か月間、「第63回ピースボート地球一周の船旅」に参加し、船で世界一周をしながら自らの被爆体験を証言しました
そのとき同乗されていたカナダ在住のサーロー節子さんの力強い言動に鼓舞され、帰国後に被爆者団体の理事として様々な活動を始めました

現在は、小学校などの平和教育の場で、被爆二世の方々と製作した紙芝居を使い、被爆体験の証言活動に取り組んでいます
これは長崎に原爆が投下された後、救援列車第一号に乗り込み、救護活動にあたった当時20歳の男性の体験をもとに製作したものです
紙芝居を見る純真な子どもたちの姿にふれるたび、私はこの子どもたちが戦争に巻き込まれ、私たちと同じ苦しみに遭うようなことがあってはならないと強く感じています

今、我が国には、被爆者の願いをしっかりと受け止め、核兵器廃絶と平和な世界の実現に向けて活動を続けている高校生がいます
高校生平和大使、高校生1万人署名活動をしている若者たちです
さらに私の住む熊本県では高校生が「ヒロシマ・ナガサキピースメッセンジャー・平和の種まきプロジェクト」と題して、同世代や下の世代に向けた平和学習の出前授業も行っています

その若者たちの姿に勇気づけられ、私は未来への希望の光を感じています
放射能に汚染された灰色の世界ではなく、命輝く青い地球を次の世代に残すために、これからも力の限り、尽くしていくことを誓います

令和5年8月9日 被爆者代表 工藤武子

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わたしは、祈ります