学校日記

風化させてはいけない3月20日 8時00分  3/20 349号

公開日
2023/03/20
更新日
2023/03/20

校長室

 平成7年3月20日、午前8時頃に東京都で同時多発テロの「地下鉄サリン事件」が発生しました。地下鉄丸ノ内線、日比谷線で各2編成、千代田線で1編成の計5車両の地下鉄車内で、化学兵器として使用される神経ガス・サリンが散布されました。乗客や駅員ら14人が犠牲になり、負傷者は約6,300人とされています。

 当時、中学生の担任をしていた私は、「教え子たちにこの大惨事をしっかり記憶しておいて欲しい」という思いから、NHKのドキュメント番組「プロジェクトX」をVHSビデオテープに録画したものを授業で再生し、感想を述べ合いました。

 その番組は、私の心にしっかり刻まれているので覚えている範囲で内容の一部を紹介します。

 東京消防庁には事故発生当初、「地下鉄車内で急病人」の通報が複数の駅から寄せられました。また、出動した救急隊から「地下鉄車内に異臭」「負傷者多数、応援求む」の報告が殺到したために、司令塔である災害救急情報センターはパニック状態に陥りました。

 救急に大量の被害者の受け入れは通常の医療施設では、対応困難なのですが、大きな被害が出た築地駅至近の聖路加国際病院は当時の院長故 日野原重明氏の「今日の外来は中止、患者はすべて受け入れる」との宣言のもと無制限に受け入れを実施されました。この病院は、礼拝堂も併設されており、緊急時には人口呼吸管理機が接続できるジャックが壁に備えられていました。点滴器さえ持ち込めば、礼拝堂はたちまち、大病室に変身しました。被害者治療の拠点となりました。

 瞳の奥が小さくなる共通する患者の症状が、何に起因するものか分かるまで病院スタッフは悪戦苦闘されました。何時間か後に「被害はサリンによるもの」と判明しましたが、治療には解毒剤であるプラリドキシムヨウ化メチル(通称PAM)が必要なのです。しかし、PAMは当時多くの病院で大量に保管する種類の薬剤ではなく、被害がサリンによるものだと判明すると同時に都内での在庫が使い果たされました。

 聖路加国際病院から「大量のPAMが必要」と連絡を受けた、名古屋に本社を置く薬品卸会社スズケンは、東海道新幹線沿線にある各営業所および病院・診療所にあるPAMの在庫を集め、東京に至急輸送するために、名古屋駅から社員を新幹線に乗せ、浜松・静岡・新横浜の各駅のホームで、乗っている社員に直接在庫のPAMを受け渡して輸送する緊急措置を取られました。

 聖路加国際病院の日野原委員長さんやスズケンの決断力で多くの命が救われたと聞いています。病院の礼拝堂の設備も大型テロに備えた設計になっていたそうです。学校での危機管理対応にも、大いに参考になった事例だと思われます。犠牲になられた方や未だに後遺症に悩まされている方に対してお悔やみ・お見舞い申し上げます。