人格権と財産権は同等? 6/6 393号
- 公開日
- 2023/06/06
- 更新日
- 2023/06/06
校長室
弁護士/NPO法人ストップいじめ!ナビ理事の真下麻里子 氏が教育雑誌に特集を掲載しておられ、いつも興味深く読ませていただいております。また、子供たちの指導の参考にもさせていただいているものを紹介します。
「DVDの貸し借り」の例です。「5人の仲良しグループの一人であるBさんから人気歌手のDVDを借りたAさんが、そのDVDをなかなか返さないうえに、最終的に傷をつけて返してしまう。怒ったBさんが同じグループのC,D,Eさんにそのことを伝えたのがきっかけで、Aさんは、B,C,D,Eさん4人から仲間外れにされてしまう。」という事例です。ありがちな事例です。
子供たちからは、さまざまな意見が出てきます。「友達から借りた物に傷をつけたAさんが悪い!」「Aさんと話し合う前にC,D,Eさんに話したBさんが悪い!」「AさんとBさんの問題なのに、勝手に介入しているC,D,Eさんが悪い!」等々。なかには、「Bさんは『推し活』というものを全く分かっていない。『推し』の普及のためには、傷ついてもよいDVDを普及用に買っておくべきだ。これは完全にBさんの落ち度だ」といったユニークな意見もあります。
ほとんどの場合、子供たちの意見は、「結局、みんな悪い」という結論に帰着します。借りた物を大切にしないAさんも悪いし、仲間外れをしたB,C,D,Eさんも悪い。お互いに謝るべきだ、というわけです。しかし、ここで真下氏は次のように結論付けておられます。
この議論には、大きな見落としがあります。「Aさんが傷つけた価値とBさんが傷つけた価値とでは、重さが異なる」ということです。具体的には、Aさんが傷つけた価値は、Bさんの財産権です。他方、Bさんたちが傷つけた価値は、Aさんの人格権であり、尊厳です。財産は、お金を払うことでその価値が回復しますが、人の人格や尊厳は、本来、お金を払うことで回復しません。ですから、法律上、財産権よりも人格権等の方が重い価値であると考えられています。とのこと。
子供たちの指導に、法律を盾に使うのはどうかと思いますが、子供たちに「みんなの権利」を考えさせるには良い題材だと思います。また、我々大人が気付かないところで他人に傷をつける可能性があることを自覚して、人付き合いしていくことが大切だとも思いました。